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三田図書館・情報学会第104回月例研究会
2000.6.10 PM2:00-4:00 慶応義塾大学三田キャンパス107番教室
0.はじめに *
1.価格問題 *
1−1−1.購読中止の概要 *
1−1−2.10年間の価格上昇 *
1−1−3.購読中止の手順 *
1−2.価格上昇の要因 *
1−2−1.出版社価格の上昇 *
1−2−2.為替レートの変動 *
1−2−3.書店手数料の削減 *
1−3.価格高騰への対応 *
1−3−1.対応策のレベル *
1−3−2.対応策の対象 *
1−3−3.図書館のハイブリッド化による対応:Hybrid Library *
1−4.設置母体との関連 *
2−2.電子雑誌の課題 *
2)コンソーシアム *
3)著作権 *
4)仲介者の役割 *
5)リンク、メタデータ *
6)電子商取引 *
3−2.ハイブリッド環境における図書館組織の再編成 *
3−3.IT革命における学術情報流通 *
◆外国雑誌の価格高騰、価格上昇の要因、図書館における購読中止の状況
雑誌担当者にとって「雑誌価格の高騰」は頭痛の種である。資料費が削減される以上、外国雑誌の購読中止はやむを得ない作業であり、日常業務となっている。資料提供を、購入からILLやDDSにシフトさせることは、教育・研究にとって得策ではないことを大学側に理解させる努力も必要である。また、電子雑誌が価格高騰の解決策であるような誤解をもつ図書館員や研究者も多いが、価格問題も電子雑誌もそんなに単純なものではない。
◆次世代の図書館サービスとなるであろう電子雑誌の現状
「IT革命」は、電子図書館や電子雑誌への対応を図書館に迫ってくる。このためには、大学による情報基盤への投資と、職員の情報リテラシーの向上が必要である。しかし、経費節減の折り、新たな設備投資をしてまで電子雑誌が必要なのか、大学の身の丈にあった図書館サービスはどの程度なのかを考えることがある。とにかく、電子媒体への資料費の配分をどこまでにするのかは早急に決定する必要がある。
◆教育サービスと統合された図書館サービス
「大学の危機」には、ベビー(少子化による生徒数の減少)、バジェット(政府の教育予算の減少)、ビジネス(大卒者の就職率の低下)の3Bがある。これらの影響を受けて図書館経費の削減は恒常化しつつある。限られた資源でよいサービスを提供するためには、効率的な経営に向けた職員の意識改革が必要である。それと同時に、経費節減やアウトソースによる勤労意欲の減退や、資料費の削減による図書館機能の弱体を招かない工夫も必要である。
雑誌担当者にとって頭痛の種である外国雑誌の価格高騰を、購読中止の現状、価格上昇の構造、対応策の3つの点から概観する。
1995-1998年度 421点 4,100万円
自然科学系の洋雑誌のみでは183点 3,300万円(現在の購読:600点 6,500万円)
1999年度までは、ほかの図書館経費は削減となったが、雑誌費はほぼ現状を維持してきた。2000年度は雑誌費も削減の対象となっている。1999年度は円高により中止は行わずに済んだ。90年代後半だけで、洋雑誌の点数は2割の削減となっている。
10年間で2.32倍
外国雑誌の価格は、10年間で2倍から3倍になっている。90年代前半は円高と若干の予算増で値上がりが相殺されていた。7社の金額比率は10年間で65.8%から70.3%に上昇している。ジョージア大では、10社の金額比率は54%から75.8%に上昇している。
為替レートについては、1998年の為替レートは1988年とほぼ同じ水準に戻っており、1989年契約分と1999年契約分についての購読価格の比較の際に、為替レートの影響は無視することができる。
【表1:10年間の価格上昇と出版社の価格構成比(1989年と1999年):鶴見大学】
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
出版社 点数
構成比 89価格計 構成比
89単価 99価格計 構成比
99単価 上昇率
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Elsevier
29 7.2% 6,063,730
25.8% 209,094 14,670,400
26.9% 505,876 2.42倍
Wiley
17 4.2% 1,996,100
8.5% 117,418 7,073,900
13.0% 416,112 3.54倍
Harcourt 44
10.9% 2,340,220 9.9%
53,187 5,694,082
10.4% 129,411 2.43倍
Springer 17
4.2% 2,602,670 11.1%
153,098 4,946,020
9.1% 290,942 1.90倍
Blackwell 31
7.7% 1,218,110 5.2%
39,294 2,478,930
4.5% 79,965
2.04倍
Kluwer
22 5.4%
906,190 3.9%
41,190 2,401,402
4.4% 109,155 2.65倍
ACS
4 1.0%
351,020 1.5%
87,755 1,076,930
2.0% 269,233 3.07倍
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
7社計
164 40.6% 15,478,040
65.8%
38,341,664 70.3%
2.48倍
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
その他 240
59.4% 8,055,840 34.2%
33,566 16,162,343 29.7%
67,343 2.01倍
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
総計
404
23,533,880
58,252 54,504,007
134,911 2.32倍
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
Kluwerグループ: Lippincott
Williams & Wilkins, Plenum
Harcourtグループ: Academic
Press, Churchill Livingstone, Mosby, W.B.Saunders
Blackwell Scienceグループ:
Munksgaard
雑誌の購読中止に関するサイト<http://www2d.biglobe.ne.jp/~st886ngw/hasegawa/cancellation.htm>
数年にわたる購読中止により、購読中止の手順は確立した。
鶴見大学は総合大学でないため重複購入タイトルがなく、重複タイトルの中止で予算の不足を乗りきることができない。90年代後半は予算の増額はなく、99年度予算からは削減が始まっている。購読中止の代替として、新たなDDSによる文献提供は追加しておらず、従来のILLで対応している。外部への文献複写依頼は大きく増加していない。
外国雑誌の価格上昇の要因は、物価(上昇)、出版社価格(上昇)、為替レート(変動)、書店手数料(減少傾向)に分けられ、雑誌の価格は前年比で10%の減少から25%の上昇の幅で変動する。
【表2:価格上昇の要因】
ページ数、購読中止、電子化、M&A
国内の代理店は、毎年、夏頃になると出版社価格の上昇についてのレポートを作成しており、10年分を積み上げていくと、アメリカ、イギリス、ドイツ、オランダの主要な出版社の10年間の価格上昇を推計することができる。大手の商業出版社では、1989年価格の2倍から3倍の価格に急騰している。鶴見大学のデータも同様の傾向を示している。個々の大学によって、出版社の割合、通貨別の割合が異なるので若干の差はあるが、STM分野の図書館は概ね同じ傾向にある。95年以降は円安と出版社価格の上昇のダブルパンチであった。
さらに、米国医学図書館のIndex Medicus収録対象誌の価格データでも、同様の結果になっている。
出版社の合併は、広範囲な影響を及ぼす。電子雑誌のシステム開発が効率的に行われるようになる反面、買収費用は価格に転嫁される。また、市場の独占による価格のつり上げが懸念される。さらに、商業主義による雑誌の編集方針の変更に反発して、編集委員が大きく入れ替わり、雑誌自体が変質することもある。
【図1:為替レートの推移】
1994年までの10年間で約2倍、1995年から円高傾向、1999年は円高
1998年通貨比率:ドル 33%、ギルダー 24%、ポンド 16%、円 14%、マルク 9%
差別価格と総代理店については一応の決着がついて、現在大きな問題として取り上げられることはない。
1982年を基準に、1994年までの各国通貨の換算レート(代理店との価格交渉の基準日での)を示す。ドルとポンドにたいする円の強さは10年間で2倍である。マルク、ギルダーにたいしても3割ほど円高になっている。日本の場合、長年にわたる円高傾向により、1994年までは、出版社価格の上昇が相殺されてきた。
価格上昇の予測のためにも通貨の比率は重要な要素である。2000年分からElsevier社は日本向けの出版社価格を円建とした。為替レートの変動を出版者側で吸収しようとする配慮であるが、1999年秋の契約時点では円高になっていたため、この措置は大変に不評であった。(この措置と合わせて、1999年から2001年までの期間限定で、日本向けの電子雑誌システムであるSD21も提示された。これは、電子雑誌がなかなか立ち上がらない日本に対してのプロモーション活動である。)
外資系の参入(1982年)とその定着(90年代)による価格競争の激化
1990年からのチェックインサービスの開始
外資系の雑誌購読代理店(日本ファクソン、日本スエッツ)の国立大学への取引開始により、納入価格の価格競争が加熱して、全国的に20%から10%以下に減少した。1982年に日本に参入した日本ファクソンと日本スエッツは、当初、日本独自の会計システムと緻密なサービス・システムに阻まれ一部の私立大学を除いて浸透しなかったが、1989年度には、いくつかの国立大学図書館で外資系が外国雑誌の契約を獲得した。国内代理店は、図書館との一段と厳しい価格交渉を余儀なくされることとなり、外資系と対抗するために新方式を導入した。新方式については、1年間の試行を経て、丸善は1991年1月納入分からMacs2(Maruzen Accelerated Consolidation System: 外国雑誌一括納入システム:マックス)を、紀伊国屋書店は1992年1月納入分からACCESS(Air-cargo, Check-in, Consolidation, Economical, Satisfaction, System:アクセス)をスタートした。
とりあえずは、予算の不足分の購読を中止するしかないのであるが、もっと大局的見地からの対応も必要である。
【表3:価格上昇と購読中止】
集中管理:複数部局による重複購入の一本化
資料費の範囲内:購読中止、競争入札、資料費の再配分
運営費までの範囲:ドキュメント・デリバリー・システムの導入
図書館全体:アウトソーシング、電子雑誌
大学全体:図書館への重点配分
図書館界全体:分担収集、共同購入
教育界全体:コンソーシアム
vs出版社:購読中止、価格抑制
vs図書館:雑誌(情報流通)へのタダ乗りへの疑問
vs図書館:利益縮小への疑問
vs管理者:利用者,財務担当,経営者との共通認識
雑誌購入のための資金をかき集める
vs図書館:図書館経営効率の悪さ
vs利用者:ドキュメントデリバリーによる文献提供機能を強化
学術情報流通の基礎知識を組織的に蓄積
vs図書館:拡大路線及びアクセス移行への幻想
1−3−3.図書館のハイブリッド化による対応:Hybrid Library
高度化:電子媒体と紙媒体をミックスした資料提供
効率化:雑誌業務と参考業務を統合し,図書館サービスを再編成
共生化:関連業界とのマルチソーシング(共同運営)による共生進化
グローバル化:経済と情報のグローバル化に対応したポジショニング
大学の総経費に占める図書館経費の割合は減少傾向にある。これは、大学における図書館の重要性が相対的に減少してきている証拠である。また、予算獲得のできない図書館側の怠慢を、研究者や出版社から指摘されても反論できない。
Pediatricsは電子雑誌が正式版、Journal of biological chemistryも同様。
【図2:Pediatrics】
Journal of biochemistry(日本生化学会)<http://jb.bcasj.or.jp/>
◆特徴
電子雑誌には優れた機能があり、若干の資料費の増額により、文献情報へのアクセスが格段に向上する。学内LANなど、かなりな金額を要するネットワーク基盤の整備が前提条件であるが、教育・研究環境も飛躍的に向上する。
安価で迅速な出版と頒布、非来館利用
PubMedによる情報入手は、現物の入手より2週間ほど先行
情報の共有化の促進と新たな形態の研究コミュニティの形成
情報量の多い電子版を正式とする雑誌の出現
二次DBや参考文献への(からの)リンク機能
目次や被引用の電子メールによるアラートサービス
コンソーシアム契約による同一出版社タイトルの包括的利用
アーカイブ保証が実現すれば資料の管理経費が消滅
電子教科書も作成でき、授業との連携が可能になる
◆課題
ネットワーク基盤を整備する経費と、電子雑誌購読費用の捻出
学問分野や個人の情報リテラシーによって異なる電子化への対応
同じく団体間の格差も存在(国内雑誌、中小出版社)
電子雑誌になっても継続する雑誌価格の高騰
論文の権威づけと品質の維持はどのように行うか
図書館や書店などの仲介機能の消滅
【表4電子雑誌の種類】【表5:電子雑誌のリンクと頒布スピード】
冊子体購読者への電子雑誌の無料提供は「抱き合わせ販売」である。電子雑誌の価格決定構造を誰が握るのか。
DB内部へのリンク:原文献、参考文献、関連文献、被引用文献
DB外へのリンク:全文データ、他ベンダーDB、出版社
2−3.DOI: Digital Object Identifier: デジタルオブジェクト識別子
【図3:DOI】【図4:DOIシステム】
デジタル著作物の流通と権利処理の自動化を行おうとするシステムがDOIシステムであり、DOI自体は、ネットワーク情報資源のメタデータの1要素であるResource Identifierの項目に、URL、ISBNなどと一緒に記述される単なる識別コードである。
デジタルコンテンツの商品コードとして電子商取引の場面でも注目:21世紀におけるISBNやJANバーコードシンボルとして期待される。
コンテンツアラートへのDOIの埋め込み
IDEAL: International Digital Electronic Access Library [2000.03.22] IDEAL Alert ToCへ登録 <http://www.idealibrary.com/servlet/useragent?func=showHome>
【図5:SISACバーコードシンボル】
PII(Publisher Item Identifier)は,雑誌の編集・制作段階から論文を識別するためにElsevier社などが採用している識別コードである.SICI(Ver.1 ANSI/NISO Z39.56-1991)では,論文レベルの識別のために当該の号の掲載ページ数が必要だったが,PIIはある号の何番目の論文という識別コードで,編集,印刷段階の作業から識別コードとして機能する.このPIIの方式は,現在のSICI(Ver.2 ANSI/NISO Z39.56-1996)には取り込まれている.
DOIシステムの応用例
a)学術研究機関に所属する研究者は,あらかじめ設定しておいたテーマに関して,電子メールで届けられる文献リストからDOIをクリックして,研究室から一歩も出ることなく必要な文献を入手し,料金は自動的に決済される.
b)マルチメディア歴史ガイドをつくろうとしている小さな出版社では,著作権者の異なるいくつものデジタル画像や,音楽を「一つの窓口」(DOIシステム)から権利処理をも済ませて一度に入手できる.
c)最近聞いた音楽の一小節が気に入った音楽愛好者は,最寄りの公共図書館に行って作者のプロフィールと曲へのDOIのリンクを検索し,プロファイル文献をダウンロードして,端末のヘッドフォンから曲を試聴した後,利用料金をその端末からクレジットで決済する.
d)大学の教授から教材として使うために,異なった出版社の何本かの雑誌論文をまとめたテキストをネットワーク上に構築するよう依頼された図書館員は,DOIシステムにより”electronic course pack”を著作権をクリアして,簡単に作り上げることができる.
Hybrid Library Environmentでは、従来までに蓄積した紙媒体資料、電子資料、図書館システムとのシームレスな接続を実現するプラットホームが求められている。図書、雑誌、ILLなどの電子商取引も今後の課題である。OPAC、電子雑誌、二次DB、Internetなどのすべての情報資源の検索・入手を融合し一元化する。個人向けにカスタマイズしたホームページから、検索式の保存、検索結果のメール送信などのアラートサービスも行う。知的活動の個人向けのプラットホームを提供する。こういった、利用者サービスと融合した業務システムの実現。
データの統合(Aggregation)→データ同士のリンク(Integration)→ほしい情報のみを受け取るデータのカスタマイズ(Customization)
円高傾向が終了して外国雑誌のバブルがはじけた。今度は、大学のバブルがはじけると図書館のバブルもはじける。
電子図書館や設置母体の経営の効率に対応して、図書館組織も変わっていく必要がある。電子図書館システムのインターフェースの開発も重要であるが、アウトソースなどもひとつの選択肢とした、図書館サービスの高度化、効率化を指向した図書館組織の再構築はさらに急務である。
書店、DBベンダー、システム業者との共生進化も視野に入れなければならない。
電子雑誌もリンクも情報提供を自動化する。自動化環境に適応した図書館組織は、コンビニを手本にしたい。
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詳細なデータなどは、以下をご覧ください。
・外国雑誌のRenewalと価格問題.
神資研. No.33 (1999.9)
http://www2d.biglobe.ne.jp/~st886ngw/hasegawa/ssk9909.htm
・DOI(デジタルオブジェクト識別子)システムの概要.
情報の科学と技術. 1999年1月号
http://www2d.biglobe.ne.jp/~st886ngw/hasegawa/doi_infosta.htm